専務と消えた黄色い看板

明け方から午前にかけて大雨だったのに正午には雲ひとつない晴れになった劇的天気の1月某日、いつもお馴染みウチの専務🦀を横浜の病院まで車で迎えに行った。
取引先から仕事の電話が来て「今って外ですか??」って聞かれたけど説明するのが面倒だったから「🦀を病院まで送りに来てます」って答えたら「病院送りは…やりすぎだと思います」と言われてフフとなった。馬鹿野郎、本気でやり合ったら送られるのは私だよ。奴は両手にハサミついてんだぞ。

専務から「終わったよー!」と連絡が来たので「病院の前にいますよー」と返事する。
東京戻って仕事しなきゃ…と思ってたけど中華街寄ってランチしてからでもいいな…とグラグラ揺れてるところに助手席に乗り込んできた専務から「駅前にクサの好きそうなお店あったから寄っていかない?」と誘われた。服屋さんだなと確信しながら「い、い、い、行く〜〜〜〜」と返事してそのへんのパーキングに車を置くと駅に向かった。

話せば長いが私は専務にクサと呼ばれている。
草でも臭でも腐でもないし名前とも関係なければ私自身が緑色なわけでもその辺にいっぱい生えてるわけでもなく2018年10月に三国無双の話してからずっとクサと呼ばれている(?)。あと更に謎だが私も専務のことをクサと呼んでいた(??)。というか私が先に専務のことをクサと呼び始めたら専務も私のことをクサと呼び始めた(???)。そして紛らわしいので譲った結果私がオンリーワンでナンバーワンのクサになった(????)。どういう何がなんなんだろう。今書いてて笑っちゃったくらいずっと意味分かんないな。

担当のお医者さんがあまりにも小声で何言ってんのか全く分からんかったからとりあえず全部ニコッ…と微笑んどいて事なきを得た話と(多分得てない)さっき運転してきた国道1号線が関西の私の地元にも通ってんねんけど繋がってんの!?という話を(さっき調べたら繋がってるらしい)しながら歩いて横浜駅に到着した。
「さて、なんて店ですか?」鬼の視力で辺りをギョロギョロ見渡しながら質問する。
「・・・」
エッ…?
「ど、どこらへんにあるんですか?」
「・・・」
専務はニコッ…と微笑んだ。いや覚えてへんのかい!!!!さっき医者にやった何も分からん時にやるやつすな!!!!!!

「ハハッ、まあまあ そんな目で見んなよ」何故かムチャクチャ余裕の表情でそう言って続ける。ネタバレするとこの謎の自信は最後まで謎だった。
「黄色い看板…そう、黄色い看板を左手にしてその奥にあった。」
「き、黄色い看板!??!」なんじゃそりゃ。よくもその程度の情報でそこまでクールな態度取れるな…。この調べたらだいたいのことが判明する世の中で原始時代レベルの目印の話になってビビった。あの葉っぱのデッカい木のところね!と変わらん。
どこにも黄色い看板なんてなくて10分くらいウロウロして私の大好きな服屋さんNARACAMICIE(イケてるシャツ屋)を発見。「ここ?」と聞くと「違うんだなそれが」とサクッと否定された。近くで冬物コートのセールをやっていたとりあえず狩りに行ったけどやっぱりまだ早い。コートは6月に買う物だと買い物の教科書の2ページ目にも書いてあるだろ。

ウダウダ言いながら歩いていると黄色い看板のロクシタンを発見した。
「黄色い看板ってもしかしてアレですか?」
指を指して聞いてみると専務は自信満々の様子で「そう。アレ」と言った。ちなみにネタバレすると全然これではなかった。
「この黄色の看板を左手にして奥でしたよね」「そう!!!!!!!!!」
「いや声でかいな。この看板を左…ってことはあっちですよね。あっち店ないですけど」「じゃあ逆だ」
ふ、不安だ…と思いながら30分くらいウロウロしてたら急にハッ!!としたように専務が覚醒した「ここ通ったことない!!!!!!」
「通ったことない」「ない」
「ないか〜」「っていうかここの改札通ってないしこの出口使ってない」
「ここ地下ですよね、階は合ってます?」「階段登った気がする」
「何改札から出ました?」「電車で来た」
「オーケイ、不明ですね」ということは地上階かな…黄色い看板…ロクシタンもきっと横浜駅周辺だけでいったい何店舗あるか…。ちょっと考えてると専務が「っていうか 黄色い看板もロクシタンじゃなくてマックだった気がしてきた」とか言い出した。
ひとしきり笑ったあとスッと真面目に「…あの、それに関してはちょっと強めに「ハ?」と言いたいですがよろしいですか」と聞くと「まあ落ち着けよ」と止められた。なんでこんなに澄ましてやがる。ピンチの時の弁護士か。

「もうポテト食いに行こうよ」専務が妨害工作を始める。「なんで諦めんねん」「逆になんでそこまで諦めないんだよ」執念にドン引きされながらも黄色い看板を探した。専務の言う私の好きそうな服がどれくらい私の好みと一致してるのか気になるだけだったけどまあ、確かにもういいかなと思い始めた。またいつか通りかかった時にコレって言うだろう。ダラダラ歩きながら地上に行くともう一つのロクシタンを発見する。横浜駅がすごいのかロクシタンジャパン(?)の店舗展開がすごいのかどっちだ。どっちもだな。
「ポテト〜」専務のリタイア宣言は続く。「後で中華街でも寄「行く!!!」食い気味に空想上のポテトを床に叩きつけた専務を連れて歩いていくと、さっき見つけた新たなロクシタンの黄色い看板を!左手にした!その奥に!ギラギラした!一際目立つショーウィンドウの!!!!服屋が!!!!!!!!あった!!!!!!
………見つけた!アレだ。私の…いや、クサの好きそうな店。
「アレじゃないですか!?アレですよね!!!」歩き出そうとすると専務が私の目を見て言った。

「な?」

初めて…この人に出会って6年、今はもう最も仲良い大親友のひとりで、数年前に一緒に会社まで作った仲の専務を初めて、初めて叩こうかと思った。
「今ちょっと叩こうかと思った」「叩くなよ〜〜〜痛いだろ〜〜」
な?ではない、例えこの銀河の全てが「な?」だとしてもこれだけは、今この瞬間のコレだけは決して「な?」ではない。「な?」の権威とされる第一人者が、「な?」国際研究センター長が、「な?」常任理事国のトップたちが口を揃えて、例えコレを本物の「な?」だと宣言したとしても、これは、これだけは絶対に「な?」ではない。「な?」でもなんでもない。「な」でもないし「?」でもない。「な?」じゃねえ。「な?」じゃなさすぎる。この世界にこれほどまで「な?」じゃなかったとこが今まであるんやろうか。「な?」に関するWikipediaにこの件が記載されてたらムチャクチャ抗議する。そりゃもう周囲がもうやめとけと止めるほどに抗議する。これが「な?」ではないという主張のために人生を賭ける覚悟はとうに出来ちまった。

結局その店は私がたくさん持ってる服屋で「ああ、ここか」って素っ気なく言ったら「ああ、ここか、じゃねえ」と逆に叩かれそうになった。叩きたいポイントがふたり同じだけ貯まったので中華街で北京ダックに交換しにいった。
春巻きを吸いながら専務は「こないだ銀座で食べた上海蟹が思ってたのと違った。上海で食べたら思ってた上海蟹なのかな…」と真顔で最近の悩み事を打ち明けてくれた。
「いや分かんねえ」って言おうとしたけどここでまた叩きたいポイント貯めちまって今度は海越えて上海まで行く羽目になったら………メッチャ楽しいな〜とおもった。仲良しかよ。