ジャム買わんかいハラスメント〜運命のホカホカパン〜

初めて働いた会社の会長と今でも月に1度必ず食事に行ってる。
高校も出てない社会人経験ナシの当時の私と電話で5分話しただけで「切れ味がいい」っつって即日雇ってくれたマジ人生最大の恩人で、その数ヶ月後に私が大手に転職したときも大笑いしてた。断じて謀反ではない、と言いたいけど8年経った今もここの関係者からたまに「光秀」と呼ばれるのでアレはやっぱり本能寺の変だったらしい。謀反だって種類があるので日本史オタクとしていろいろ反論したいけどとりあえず大河になってくれてよかったでござる。

雰囲気がゴッドファーザーぽいので会長のことは裏で勝手にボスと呼んでいる。
ボスはこの銀河に数多の宿泊施設を所有してるオーナーで、最近の流行り病のせいで本当に大変そうだった。この人はフツーの資産家なので倒産的なことには絶対ならんぽいけどとりあえずこの時着ていたシャツの第4ボタンだけ空いてた。そこだけ空いてた。言おうかな、言うかな、と思いながらガン見してたけど気付いてくれなかった。なんか出会って真っ先に言うことがそれってファッションチェックしてるみたいで失礼かなと思ってただガン見してた。(それもどうなの)
指定された都内のレストランに向かうと珍しく私が先だった。席で待っていると「店潰れた?」とメールが来る。いや潰れてねえ、迷ったって言ってくれと思いながら軽く経路を書いて返信するとガン無視してタクシーに乗ってやってきた。「メール見ました?」と聞くと「長文だな〜と思って読んでない」とか言う。60近く年上でなければフツーにちょっと叩いてた。

注文を済ませウェイターさんが会釈して去っていくと同時にでっかい茶封筒を4つ手渡される。
「なんですかこれ」たくさん紙が入ってるみたいで重たかった。
「積年の私への文句をまとめたんですか?」「それはまた別にある」いやあんのかい。中を確認すると数百枚の書類のコピーが入っていた。
「面白いよ」「何ですか」「まあ見てみなって」いちばん分厚い封筒から中身を引きずり出してビッシリ書かれた表を見る。「日付と人数…あ、建物名書いてありますね。宿泊予約ですか?面白い要素ないですけど」薄目で見たらムチャクチャ面白い変顔が現れたりすんのかなと思って目を細〜くしていると(バカである)言われた「キャンセルの履歴だよ」
「え」「もうビックリでね、リーマンショックの頃よりヒドい。サーズの時もなんもなかったし震災の頃は復興に切り替わるまで早かった」
面白いよ、そう言って手渡されたはずなので意図が分からず「これ面白いですか!?」と聞くと「アレ…どうせ高笑いすると思ったんだけど」と意外そうに言われた。わしゃ悪役か。

そのあと、銀行がやってる宿泊事業向けの融資の話とか面白い宿泊プラン打ち出してる旅館とかの話をしているとボスは急に「女将の言う通りになったなあ」と言い出した。
「女将?ってあそこの」「そう」とある有名な観光地にある老舗の旅館の女帝で、コロナ初期の頃にさっさと営業停止して従業員みんなでシンガポールに遊びに行っちゃった凄い女将のことだ。「女将がね、絶対にオリンピック延期になるって最初から言ってたんだよ」普通にスゴくて笑いながら「理由は?」と聞くと「数字が不吉らしいよ〜」と言われた。エッ…エエッ!??!?会社のみんなのこの話したら「女将凄すぎワロタ」みたいな感じだった。相変わらず軽くてワロタ。

「最近どんな仕事してんの?自慢しなよ」と言いながらボスは厚い肉をツンツンしてた。肉をツンツンすな、と思いながら「最近は服関係が多いですね」というと「服?なんで服?」と驚かれる。「エッ」「え?」「エッ…いや…」「?」「私が…服…好きなので」そういうと若干沈黙が続き「そうなの!?初耳!!!!」と言われた。いやもうなんつうかまあ言ったことはなかったけど…なんていうか…ねえ…見たら分かるやろがい案件かと…思ってちょっと黙っていると「ごめん今なんて言った?フクスケ?」と聞かれて笑った。「私がフクスケなので」ってなんだ。

「そういえば先週まで滋賀行ってましたよね」って聞くと、私の前に置かれたケーキの上に乗った生クリームをガン見しながら「シガ?」と言われた。
「え、写真送ってくれたじゃないですか」「送ったか?」「行ってないんですか」「覚えがない」あれ、、、人違いかな。相変わらず私のケーキをガン見している。穴が空いたらどうしてくれんだと思いながら「琵琶湖沿いのホテルに泊まったって言ってませんでしたっけ」と聞くと「ああ!琵琶湖は行った」と言われる。それこそがシガです。琵琶湖と滋賀が繋がらない人初めて目撃してしまった。
「琵琶湖の近くにあったお店でね、フレンチトースト食べたんだけど。世界で一番美味しいフレンチトーストだったねえ」って言われ速攻で店の名前を聞く。世界中の美味しいものを食べてる人から美味しかった情報をまとめてる闇グルメリスト(闇)がこの10年でどんどん分厚くなってきた。「いいですねえ、美味しいフレンチトーストっていう言葉の響き」と言うと「いいよね、フレンチトースト作るの絶対大変だろうけどさ、焼いたり煮たりさ」と返され煮るわけないだろと思った。私が自炊しないことをいっつもチクチク言ってくるけど次言ってきたらフレンチトーストを作ったあとの煮え湯を飲ませてやる。

ボスがお手洗いに行った隙にカッコつけてテーブルで支払いを済ませて待っていると帰ってきた第四ボタンがバッチリ閉まっていた。「あ、閉めたんですね」と言うと「……………言わんかい!!」と叱られた。
支払いがこちら持ちだったことを知ると「偉くなったな…」とドン引きされたので「いえ、私じゃなくてフクスケが払って行きました…」と言うと「ああ、これもフクスケからだよ」とレストランのスタッフがでっかい紙袋を持ってきてくれた。
「フクスケ、金持ちなんですか?」「なんじゃない?」「コレなんですか」「おたくの会社の皆さんに、人数分あるよ」中を見たらホッカホカの焼き立て高級食パンだった。
スタッフさんにお礼言って「あなたも貰いました?」と聞くと笑って「貰いました!」と言われる。妖怪パン降らしに「荷物になるかなと思ったけどどうせ車で来てるんでしょ」「それに今から会社の人と会うでしょ」「あ、浜松町まで送って」と言われ、会社を作ったことずっと大反対されていてこういうことは初めてだったのでちょっとウルッときてたけど落ちかけた涙は浜松町で乾いた。「あれ、ウチの会社って人数何人だと思ってます?一個足りないですけど」と厚かましく言うと「お前もいるのか〜」と言われた。レストランの人がちょっとアッttって顔をしたので「会社の人からちぎって貰います」って爽やかな顔で返した。

専務🦀に電話すると「常務🐏が欲しがってたジャム買いに自由が丘まで来てるよー!」と言われて運命を感じた。ホカホカのパンを輸送している人間と、ジャムを買いに行ってる人間…。合流すると「売り切れだったから買ってねえ〜」と言われて「買わんか〜い!!!!!!!!」と問答無用で車を飛ばして世田谷のパティスリーまで無理やりジャム買いに行き、どういうわけか鳥肉のレバーをゲットして大満足で仕事に向かったのであった。