車椅子のオッチャンと7本の自爪

わたしは爪が長い。根元から測って約3センチいかないくらいまで伸ばしてる。
それじゃ生きづらいのでは?とよく心配されるけどそそそれは爪が長いことと関係ある方の質問だろうか………深爪しても同じこと聞かれたらどうしようと不安で余計切れない…(これはごく普通の人のせいです) 爪伸ばしまくって不正した指の長さの手が好きでここ数年は事実を改ざんし続けている。

自爪ですかともよく聞かれる。ずっと10本ぜんぶ自爪、だった。こないだまで。
こないだ以降は3本だけ付け爪になってる。3本失った時もういっそのことリセットして深爪しようかなと思ったけど「伸びるスピードが異常に早くてマジヤバイウケる」と言ってくれたネイルサロンの担当のギャルの言葉を信じて他7本の長さに辿り着くまで付け爪で育成に入ることにした。2ヶ月でぜんぶ同じ長さになるよと言われた。本当かよ。よう分からん南国の観葉植物みたいやな。アイツら異常に早そう。偏見やけど。

3本失ったのはこないだとある忘年会に参加した日。ぼっちで壁際に咲いてたら、車椅子のオッチャンが会場に入ってきた。
透明プラスチックのコップに入ったリンゴジュースを飲みながら(マジ誰か早く知り合い来てくれ頼む頼む早よ来すぎたかな〜?!)と1人で入り口をガン見してたからそのオッチャンのことも見てた。縦のシマシマのスーツ着て口笛ふきながら割とスピード飛ばしてグングン進んでいらしたからここに来たことある人なんかなと思った。この会場の地形を知ってる人の速度な気がした。これが大間違いやってんけど。

この先に段差がある。ちょっと間隔開けて続けて2段。
洒落た造りで誰にでも便利ってそんなに多くないんかなと思いながらオッチャンがグングン進むのをなんとなく見てた。段差あるの知ってるのか心配になって声かけようかと一瞬考えたけど私が想像できる車椅子の通常スピードより速かったからやっぱりこの会場を知ってる人の可能性のほうが高いなと思った。熟知してる場所でポッと出のモブに「そこ段差ありますよ!」って言われたらイラッとするかなと思って。私もごはん食べてるときにカロリーの話されたらこの世の全ての大人げないを詰め込んだキレ方するし…(それは例えとして適切なのか)

そしたらオッチャンは流れるように段差に突っ込んで行った。
「いやマジか!!!!!」と思った瞬間もう既に飛び出してて気付いた時には両手で車椅子を思いっきり後ろに引っ張ってた。

ど、動体視力…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

いやお前、おま、ここでもか?!?!?!?!誰かがピンチの時は必ず間一髪で駆けつけてくれ…おま…ちょ、1番カッコイイやつやんけシャンクスかよ?!?!?!?!?!?
見開き2ページで急に現れるなよ!!!次の回絶対巻頭カラーで表紙やないか!!!なんやねん!!!!全く!!!!頼りになる〜〜〜〜〜〜〜味方軍に呂布おる時の三国無双かよ〜〜〜!!!!!!!!!!!

車椅子ってこんなに重いのか…勢いもあったから…とかとか思いながら余りにも一瞬のことやったから自分でも今どういう状況なのかがよく分かってなかったけど、周りが駆け付けてくれてオッチャンは段差の上に戻ってきたところで私もやっと周りが見えてきた。
オッチャンも"動体視力の者"っぽくて自分で段差降りた瞬間にブレーキ?かけてたぽくて自分でどうにか出来てたぽくて私マジで今年いちばんの余計なことしててちょっと笑いそうになった。"メチャメチャ慌てて触りに行った人"になってた。
右手でコップごと持ち手部分を握っていたからグニャとなったプラスチックのコップから勢い余って飛び出したリンゴジュースがオッチャンの肩にかかってた。"メチャメチャ慌てて触りに行ってジュースかけた人"になった。なんか恨みでもあんのか。
オッチャンがとにかくめっちゃお礼言ってくれたけど入場3分で余計なことしてネトネトにしたから相殺するためにシバいた方がよかったと思う。

そして今更ながら私からオッチャンの車椅子までの数歩の間にいた女の人に思いっきりぶつかったことも思い出した。お前は暴走殺人マシーンか。お姉さんにぶつかった肩が痛かったからお姉さんはもっと痛かったと思うしビックリしたと思う。"おもくそ人にぶつかりながらメチャメチャ慌てて触りに行ってジュースかけた人"になった。本当に申し訳ない。ちなみにこのお姉さんとはこの日からメル友になった。

オッチャンから離れてお姉さんのところに行って「すみません さっき思いっきりどついてしまって お怪我ないですか」と謝ると「ドツイ…?私の方はぜんぜん大丈夫です。血出てますけどティッシュいります…?」と言われた。ど、どつく…その単語そんなに浸透してないか東京…ラップ本舗があるから宇宙にも通じると思っ…待って血…!?「えっ鼻血?!?!」(※普段よく出る) って言いながら慌てて鼻の下に指を当tイッッッッッッッッッッッッッッテェエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
いや?!?!これは?!?!指??!!指ちゃう爪との連結部分!!!根元がマジでイテェ!!!!!!!!!!何?!?!?!?!
なんか、すごい、嫌な予感がする、と思いながらバッッと薄目で手の先っぽを見たら何本かが彼岸島の最終巻みたいになってた。怖くて読んでないのでイメージやけど。北斗の拳でスゴい技くらった敵が内側からスゴイことになるあのスゴい感じになってた。こっちは読んだから適切。

一部始終を見てたスタッフさんが慌ててティッシュ持ってきてくれて数枚引き抜いて渡してくれた。"おもくそ人にぶつかりながらメチャメチャ慌てて触りに行ってジュースかけた上に無駄に爪が剥がれかけた人"になった。いやもうあの自業自得っていうか完全に伸ばしてる奴が悪いんやけど、みんな優しいからそれを指摘しないでいてくれて無言の沈黙のシーン……の中、スタッフさんがメチャクチャ言いづらそうに「あの…さっきので…あの鼻の下にも血がついてます…」って微妙に微笑みながら教えてくれた。例えヨソの血持ってきてでもどうしても鼻血出したいマンvsこんな時でも笑顔を忘れないプロのサービスマン。

恥ずかしすぎて「ね〜!ほんと!ナハハ〜!」って陽気にお手洗いに逃げてきた。鏡で顔見たら鼻の下に滲んだ血の痕がチョビひげみたいになっててメチャクチャ笑いながらこれは流石に写真撮ろみんなに送ろう(今考えると鼻の下に血痕つけた自撮り送ってくるやつ嫌だ)と思ってずっと左肩に掛けてたポシェットからiPhone取り出そうとして留め具部分を爪でイッッッッッッッッッッッッッッtテェエ!!!!!!!!!!!!!!

………………………………(もう何も言うことはない)

手をかざすと水が出るタイプの洗面でマジでよかった。アホなので蛇口だったらひねってまたイッテェするところだった。もはや水が痛い…傷口にしみてんのかと思ってたけど普通に水圧が痛かった。「もうダメだ…」と普通に思った。ププッ、これはツイッターに書〜こおっと、傷口に水がしみるとおもったら水圧だった もうダメだ、みたいな。さっそくツイートしようとして濡れた両手から水分をパッパッと払っtイッッッッッッッtttttttttttテェエ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!学べよ!!!!!!!!!!!!!

も、もう満身創痍だった…。立て続けになんでこんな目に…(ほぼ自分のせい)…最後思いっきり手振ったのマジで痛かった…最も痛かった…もう頭も痛い…存在も痛い…ついでに人生の先行きが不安になってきた…会社の将来もとりあえず心配になってきた…。
トイレの個室に入るひとたちも飲食店の洗面所で彼岸島してるヤツをドン引きの目で見て迅速に去っていくし…。多分さっきの動体視力の見開きページの時が1番ひと少なかった時で、外から聞こえるガヤガヤ的に今このタイミングが宴がたけなわってる時で、ドン引きの目で見てくる皆さんは何が起きたか知らないから"おヨソの水回りを赤く染めて時たまイッテェ!とか言いながら半笑いで絶望しつつ服装はやたらキメてるひと"ということに気付き忘年会だろ、これを忘れてえよ、と思った。マジに。心から。
もうどうしようもならなかったので片付けて証拠隠滅して、ティッシュでヤバそうな指だけ何本かだけ包んで外に出た。その時にはもう失った3本は割れてた。爪が剥がれたわけじゃなくてなんかちょっと皮膚から浮いた感じになってた。生きづらそうも浮いてるのも本当に爪の話だよね…?!

店内に戻るとオッチャンがずっと待っててくれたみたいでそのあと話した。ネイル代出すって言ってくれたけど私が何か余計なことを言うのを上回るスピードで動体視力に止められ舌を噛み切って黙ってた。お前がオッチャンのネイル代を払え。"おもくそ人にぶつかりながらメチャメチャ慌てて触りに行ってジュースかけた上に無駄に爪が剥がれたのでネイル代ぶんどった人" ヒドすぎる。もう税金2乗で取ってくれ。さっきトイレでドン引きしてたひとたちもっかい連れてきて全員並んでいただいてせ〜の!でドン引きしていただいた方がいいくらいだと思った。

ただ忘年会に行っただけなのに"おもくそ人にぶつかりながらメチャメチャ慌てて触りに行ってジュースかけた上に無駄に爪が剥がれたのでネイル代ぶんどろうとしたから罰として税金2乗で取られる人"になった。
やらなかったら良かったなとは思ってないけど本当にやってよかったんだろうか。人助けっていうより、知らないひとの役に立つことの難易度って思ったより高いな。ちなみにこのオッチャンともメル友になった。仲良しかよ。